「コールドアライン」

ワープに入るまでの時間を短縮するという目的においては 「コールドアライン」 (または 「パッシブアライン」) には意味がない、というお話です。


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そもそも 「コールドアライン」 とは?

こんな用語を聞いたことがなかったとしても心配はいりません。日本語圏はもとより、英語圏でも一般的な用語ではないと思います。「コールド」 があるのですから、「ホットアライン」 もあります。こちらも覚える必要はありません。

  • ホットアライン : いわゆる普通の 「アライン (軸合わせ)」 です。ワープ可能な目標物に向けて 5度程度以内の誤差で船体の軸を合わせ、船の速度ゲージの 75% 以上まで加速した状態です。他に障害がなければ、この状態からはワープボタンを押した瞬間にワープにはいることができます。
  • コールドアライン : ホットとの違いは、船が 「静止」 していることです。ワープ目標物に向けて船体の軸を合わせたら船を静止させて待機します。これをコールドアラインと (一部で) 呼んでいます。


コールドアラインの意義

一般的には、危険な環境での作業 (ハイセク外でのサイト攻略、サルベージ等) 時に、危険を感知したら少しでも早く現場からワープして脱出できるよう、あらかじめ船の大まかな向きだけでもワープ目標物に合わせておく、という意図で行われることが多いと思います。しかし冒頭で述べたとおり、実はこれには意味がありません。


サーバーは 「船体の向き」 を処理していない

EVE の船は、サーバー上では向きをもっていません。クライアント上にはさまざまなデザインの船が存在しており、当然それぞれに前後があるように見えますが、サーバー上では言ってみればどれも球体のようなものなのです。おまけにそれらの球体は向きが固定されており、回転すらしません。つまり、球体が北なら北を向いたまま、四方八方に後ずさりしたり横歩きしたりしているようなイメージです (*1)。 サーバーが実際に情報として管理しているのは、船が動いている方向とその速度のみで、船体モデルはその情報を元にクライアントが飾りとして後からかぶせているだけなのです (*2)


静止状態からワープに入るまでの時間は、どちらを向いていても変わらない

ということは、「コールドアライン」 している (= 完全に静止している) 船は、その見た目の向きにかかわらず、サーバーでは運動の方向も速度もゼロのいわば 「点」 としか認識されていないということになります。そうであれば、その状態からどちらの方向に向けてアラインを開始しようと、「軸」 そのものはアラインを開始した瞬間に、船体モデルの向きにかかわらずすでに目標物に合っている (*3)、言い換えると 「船を向け直すために時間が余計にかかるということはない」 ということで、必要な速度に達するまでの所用時間も、目指す向きにかかわらず同じになります。「船体モデルの正面に向けたワープであろうと、真後ろに向けたワープであろうと、静止した状態からであればワープに入るまでの時間は変わらない」 ということです。 (*4)


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ワープに入るための二つの主要な条件が 「向き (軸)」 と 「速度」 である以上、「向き」 だけでも合わせておこう、というアイデアが生まれるのはごく自然なことです。しかしこの一見しただけではわからない仕様のせいで、残念ながら 「コールドアライン」 というコンセプトは成り立たないのです。「ワープに入る時間を短縮する」 ことを考えるのであれば、少なくともワープ目標物に向けてゲージの 50% 程度 (船の敏捷性にもよります) の速度を出していないと、実質的に意味のある効果は期待できないかもしれません。

「コールドアライン」 がそもそも存在しないのですから、「ホットアライン」 を定義する意味もなくなります。冒頭でも述べたとおり、『そんな用語聞いたことない』 という人が多いかと思いますが、それも道理なわけですね。EVE 攻略史上のちょっとした黒歴史と言えるかもしれません。




 (*1) 「静止している相手をオービットしながら攻撃する」 という状況を想定した場合、現実世界の状況で考えれば、相手から見た自分の相対横断速度 (transversal velocity) は大きくなり (= 相手は自分に銃口を向けるために、常に自分を追って銃口を動かし続けなければいけない状態)、逆に自分から見た相手の相対横断速度はゼロ (= 銃口を相手に向けたまま、固定していられる状態) になりそうなものですが、実際にはお互いの相対横断速度がまったく同じ値になるのはこのためです。

(*2) ただし、静止状態から 「加速」 だけを行った場合は、船体モデルの向きが船の実際の進行方向を決めるために使われているようです。つまり静止状態からのプレイヤーの操作が、「接近」、「オービット」、「アライン」 など、目標物や起点がありそこから船の進むべき 「軸」 をサーバーが割り出せるタイプの動作ではなく、速度ゲージの操作 (およびそのショートカット) による 「速度」の指定のみだったような場合には、「軸」 の情報としてクライアント上の船体モデルの向きが参照され、サーバーに送られるものと思われます。

(*3) 静止状態からワープのためにアラインを開始したフレイター (超大型輸送艦) が、その過程でウェブをかけられると、しばしばあらぬ方向を向いたまますっ飛んでいく (ワープに入る) のはこのためです。内部的にはアラインを開始した瞬間に 「軸」 は合っており、そこにウェブをかけることで 「速度」 の条件も満たされるため、船体モデルが進行方向に向ききらないうちにワープに入ってしまうわけです。

(*4) ただし、『船が厳密な意味で 「完全に静止した状態」 というのは、ゲートジャンプ等、ジャンプ後にしか存在しない』 という、プレイヤー発言も見かけました。どういうことかと言うと、いったん宇宙空間で動いてしまった船は、その後停船操作によって速度表示が 0m/秒 になったとしても、内部的には小数点以下の速度で絶えず動き続けている、ということなのです (根拠となる検証や、開発者による発言があったうえでの話なのかどうかはよくわかりません)。とは言え、同スキル・同装備の船 2隻を 0km/秒 で向きを違えた状態で配置し、同じ目標に向けて同時にワープさせると、(少なくとも人間に認識可能な範囲では) 両船とも同時にワープに入り、同時に目的地に到着するそうですので、たとえ厳密には静止でなかったとしても実質的にはあまり問題にならないかもしれません。

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